日曜の午後、R駅の近くに来ていた。B市に行く友人を見送るためだ。新聞と週刊誌に、缶ビールを渡して改札口で別れた。駅の出口に向かって歩いていると、山中さんが前を歩いている。雑踏の中で気付かなかったのだが、山中さんもご主人を見送りに来ていたのだ。「やあ、山中さん。」と声を掛ける。「あら、主任さん」驚いたように振り向いて応える。私は職場では、主任さんと呼ばれている。私が「友達を見送りにきてたのです」と言うと山中ルミは「主人が、金曜の夜に来ていたんです。いままた帰ったんですの」と言う。「あ、そうだったの」「はい、ああそうだ、前に酔いを覚ますのにお世話になったので、お茶でもごちそうしたいわ」中山ルミは、そう言って私を出口の方に促す。「いやあお礼なんて良いですよ」「でも、せっかくだから」と半ば強引に誘う。「ほんとに良いんですよ、気を遣ってもらわなくても」「気を遣うだなんて、少しだけお礼がしたいだけなんです」「そう、じゃ、せっかくだから、お言葉に甘えようかしらね」私は、そのあと別段の用事も無かったので山中ルミについていくことにした。駅を出ずに、駅の構内にある何軒かの喫茶店やレストランのうちの一つを選んで二人で入った。この駅は職場からも私の家からも離れたところであるので、知った者に出会うことはない。そこでコーヒーとケーキを頼んで、向き合った。こうやって、向き合うのは面接の時以来だ。その時は所長が同席していたが、今日は1対1だ。 |